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| 鳴き砂の保存と日本ナショナルトラストの活動 |
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米山淳一(Yoneyama
Junichi) |
(財)日本ナショナルトラスト・事務局長 |
砂浜の砂が鳴くことをご存知だろうか。キュッ、キシュ、ブウブウと、確かに鳴く砂が各地で発見され「鳴き砂」と呼ばれている。
財団法人日本ナショナルトラストでは、琴引浜(京都府網野町)の「鳴き砂」を初めて調査したのが昭和五十七年である。この道の第一人者である三輪茂雄先生(同志社大学名誉教授)が調査にあたられ、琴引浜の鳴き砂の成分の分析をはじめ、鳴くメカニズムを解明されている。地元網野町役場もこれには大いに注目、現在では、町の貴重な宝物として天然記念物に指定されている。
もちろん網野町の住民の盛り上りもたいへんなもので「琴引浜の鳴き砂をまもる会」が発足している。同会の活動は、地域に根ざした環境保全活動を推進している。浜の清掃はもちろん、調査、広報と幅広い。忘れられないのが、ロシア船籍(せんせき)の貨物船「ナホトカ号」が座礁して大量の重油が流出。琴引浜にも浜を埋めつくすほど流れ着き、目をおおうばかりの惨状となった。"鳴き砂"は、まったく鳴かなくなり、もう復元は無理と言われ、まさに泣き砂になってしまうのか誰もが不安にかられてしまった。
しかし、守る会、役場は、これにめげずに全国に琴引浜の清掃ボランティアを呼びかけ、大規模な浜の復元作業が始まった。本格的な清掃のおかげで、みごとに鳴き砂は、よみがえったのである。重油といっしょに、それまでたまっていたゴミも一掃でき、以前よりよく鳴くようになったというおまけ付となり、皆、大喜びであった。
近年は、浜を全面的に禁煙にし、これを条例化している。鳴き砂は、タバコの灰が少しでも入るとまったく鳴かなくなってしまうからである。海水浴客の多い夏には、ボランティアでパトロールもおこなっており、成果は着実にあがっている。
このように地域の遺産は、地域が守る。それも市民が主体で守る。こんな時代にわが国もなってきている。
なお、このような鳴き砂を大切にするため、財団法人日本ナショナルトラストでは、全国の鳴き砂のある市町村や市民団体に呼びかけ、「全国鳴き砂(鳴り砂)ネットワーク」を設立し、十年を迎えている。琴引浜に限らず、鳴き砂を守る熱き想いはどこでも同じで、北海道から九州に至るまで、二十五か所の鳴き砂が確認され、この内、十五の浜で十九の市町村や市民運動体がこのネットワークに加盟している。
本年は、先日、能登空港が開港した門前町(石川県)で全国サミットを開催した。門前町には、美しい海岸線を誇る「琴ヶ浜」があり、優れた鳴き砂を市民、行政が力を合わせて保全している。
さて、財団法人日本ナショナルトラストでは、このような全国規模のネットワークを、五種類、事務局として運営している。
茅葺き民家を愛する市民・行政、そして茅葺き職人の皆さんが参加する「全国茅葺民家活用連絡ネットワーク」、SLをはじめ歴史的鉄道車両を動態保存し、末永い保存と地域活性化をめざす「日本鉄道保存協会」、わが国の近代化に貢献した産業、交通、土木関連の歴史的遺産を守り育てる「全国近代化遺産活用連絡協議会」、そして最近は、湘南地域に残る別荘や有名人の歴史的建造物の保存・活用をめざす「湘南邸宅文化ネットワーク」である。
それぞれ財団法人日本ナショナルトラストの調査や保護事業と密接な関係にあり、相乗効果を生んでいる。
さて、ネットワークの話が先行したが、財団法人日本ナショナルトラスト(JNT)の事業を話したい。わが国の美しい自然や貴重な文化遺産を市民・行政・専門家・JNTが力を合せて保存・活用し、後世に伝え残すことを目的に、イギリスのナショナルトラストをモデルとして一九六八年(昭和四十三年)に設立された国土交通省の公益法人だ。特定公益増進法人(免税団体)に認可されており、募金等により自ら歴史的建造物をはじめ、優れた資源の取得、保存をめざしている。
募金によって「白川郷合掌造民家二棟」「歴史的鉄道車両四両(トラストトレイン)」を取得、「安田楠雄(くすお)邸と庭園(東京都)」「駒井家住宅(京都市・設計ボーリス)」「旧日本美院跡(北茨城市)」「岡倉天心墓所(北茨城市)」を寄贈により取得する一方、「名勝旧大乗院庭園(奈良市)」を保護管理している。
この他、町づくりの拠点としてのヘリテイジセンターを全国で七か所建設(日本宝くじ協会助成)し、歴史を活かした町づくりを推進している。
また、観光資源としての歴史、自然遺産の調査を全国で約二百か所実施。先の「鳴き砂」をはじめさまざまな保存・活用の施策を提言している。そしてこれらの事業は、会員の皆さん、企業団体等の皆さんのご寄付やボランティア活動に支えられているのである。
設立されて本年で三十五年。イギリスのナショナルトラストの百年以上の歴史と実績にはとても及ばないが、わが国独自の手法を模索しながらも確立しつつあると考えている。
と言うのも、イギリスのナショナルトラストの活動の特徴は、歴史的遺産を中心にこれらを保有・管理するホールディングボディであることだ。一八九五年の設立当初は、よく知られているとおり三人の市民が始めた市民運動のようにとらえられるが、その後、政府や貴族階級の人々との連携からナショナルトラスト法を設け、所有した遺産を永久に守る譲渡不能(じょうとふのう)や免税特権を武器とし、多くの支援者の賛同を受けるに至っている。
しかし、このように所有・管理を中心としたナショナルトラスト活動だけでは、わが国の生活文化の中で事業をおこなうことは難しく、試行錯誤の結果、調査事業を介して、地域の歴史や文化を大切にしながら町づくりをおこなうイギリスシビックトラストの手法をも参考にした、わが国独自の道を歩み始めつつある。そのため、ネットワーク事業もおこなえば、ヘリテイジセンターの建設もおこない、さらには、地域の市民や行政、専門家との連携プレーにより、地域の活性化にも取り組んでいるのである。
今日、観光立国がさかんに話題にのぼっているが、これまでのようなマス観光やテーマパーク的観光ではなく、地域の歴史・自然・生活・文化を実感出来る観光であるべきと考えている。観光とは、国の光を観ると理解しているが、まさしくこの光は、地域固有の優れた資源であり、これこそ宝物なのである。
設立以来三十五年を経たが、JNTのめざすところは、あくまで本物の観光資源の保存・活用である。そしてその主役は、市民なのである。
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