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構築物の風景 |
| アルテピアッツァ美唄 |
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| 文 |
内藤 廣(Naito Hiroshi) |
東京大学大学院工学系研究科・社会基盤工学専攻教授・建築家 |
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大野 繁(Ohno Shigeru) |
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丸い水盤、水路、彫刻。白い石と周囲の緑との対比が鮮やかだ。雪が降れば、すべてが白に包まれる。白い石の表面を流れる水は、この場を浄めているように見える。水盤の水は鏡のように静かで、あたかもこの地に流れてきた時間を映し出しているようだ。
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夕張や美唄は炭坑町として習った記憶がある。今回取り上げるアルテピアッツァは美唄にある。美唄はアイヌ語でビオバイ、からす貝の多いところ、という意味らしい。内陸の美唄になんでそんな名前がついているのか不思議だ。アルテピアッツァは、美唄市と彫刻家・安田侃(かん)が共同で十年にわたり手を加え続けてきた場所だ。小学校と周辺敷地を含む二万平方メートルの土地が対象になっている。
安田侃氏は、一九四五年に美唄に生まれこの地で育ち、東京芸大の大学院を出てミラノに渡った。以来、イタリアの代表的な大理石の産地であるカラーラの近く、フィレンツェから八〇キロのところにあるピエトラサンタを本拠地に活躍する世界的な彫刻家として著名だ。
アルテピアッツァは安田さんの命名で、イタリア語で芸術の広場という意味だ。廃校になった小学校を改修し、その中にアトリエをつくり、保育所をつくり、体育館や古い教室を安田の彫刻が並ぶギャラリーに変えた。屋外は、安田の彫刻が並ぶ贅沢な屋外美術館となった。近くには、かつてはうなりをあげてフル稼動していた炭坑の揚重機や無数の高圧電線が張られていた送電所の跡が残されている。何の役割も果たさなくなった構築物や建物は、不思議なことに時とともに哲学的な表情を持ちはじめる。
炭坑が盛況の頃の美唄は九万人の人口を擁し、最新の映画が上映される映画館が三館もあり、洋服も銀座のファッションがいちはやく洋品店の店頭を飾ったという。ここにはさまざまな歴史の光と影が眠っている。最盛期には炭坑地区の人口は六万人に達したという。かつては多くの外国人労働者も動員され、過酷な労働に従事した。戦前戦後を通して幾度かの落盤事故もあった。炭坑は一九七三年までにすべてが閉山になり、現在は人口三万人のこぢんまりとした街になった。
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彫刻とベンチ。何気ない風景。今と昔を連想させるランドスケープによるゲーム。
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世の流れは早い。人の思いを待っていてはくれない。多くの人たちの思い出を積み残したまま街は衰退した。アルテピアッツァを中心とした街づくりは、そうした積み残されたさまざまな記憶や思い出への鎮魂歌のように思える。しかし、多くの場合、記憶や思い出は個人の脳裏の中に留まって消滅していく。それ自体は他に働きかける力を持たない。時代を超えてそれを語り継ぐためには、未来への想像力と知恵がいる。
現代の抽象彫刻にあまり心を動かされたことはない。もともとそういう感性に欠けるところがあるのかも知れない。しかし、ここで見る彫刻たちは何かが違う。木造二階建ての校舎の薄暗い教室に、ポツンと白い大理石の小さな彫刻が置かれている。彫刻の柔らかな形は、周囲に独特の磁場を生み出している。柔らかく回り込む白い肌は、母のようでもあり子供のようでもある。これらを眺めていると、不思議にかつてここに居た人たちの温度が石に宿っているような気になって、ふと触りたくなる。慈しみたくなる。
彫刻やランドスケープは、単なる美しいものをつくり出そうとするだけなら、底のほうから沸き上がってくる力を持ち得ない。安田さんの仕事に力を与えているのは、やはり沈潜する記憶なのだと思う。それは同時に、この場所に生きてきた人たちの記憶でもあるのだ。大切なことは、アーチストが彫刻をこの場所に置くということを通して、さまざまな記憶が歴史の闇からノスタルジーという回路を通って呼び戻されるところにある。安田さんの意図もそこにあるはずだ。
ここでの彫刻は、時間の語り部のようだ。彫刻は具体的な何かを語るのではない。おおいなる勇気を持って歴史を現在に召還すべきだ。そして、ただ懐かしんだり、回顧したりするのではなく、未来をつくり出す創造的な精神の中に回収すべきだ。なぜなら、荒れ果てた故郷や疲れ果てた都会の風景は、そこに連綿と重ねられて来た時間の堆積、それを歴史と呼んでも良いのだが、そうしたものたちへの冒涜と否定の上に成り立って来たからだ。
全国の地方都市が街づくりに思い悩んでいる。街づくりとは、歴史から切り離されてしまった現在の街を、時間の流れの中に取り戻すことなのではないかと思う。時代の波を正面からかぶってしまった美唄という街に起きたこと、そしてここでやろうとしていることの方向性は何処の街にもあてはまることだと思う。
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