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 [天地大徳]
 地方への誘い「酷道をゆく」
 
 
大石久和(Ohishi Hisakazu) 国土学アナリスト

最近、全国あちこちの国道を走破してみようという愉快なオタク青年たちとつきあう機会があった。しかし、彼らは並みの国道を走りたがっているのではない。なぜこんな道路が国道になっているのだと首をかしげたくなるような道路を「酷道」と命名して選んで走り、それを楽しんでいるのである。

だからオタクなのだが、彼らが大好きな酷道に「国道339号」というのがある。これは、青森県弘前市を起点とし五所川原市などを経て、東津軽郡三厩村を終点とする国道である。国道七号と国道280号とを結んでネットワークを形成することから、昭和50年4月に国道として路線が指定された。ところがこの国道の竜飛岬付近では急な坂道があり、もともと自動車交通は困難であった。その後、この坂道の近くに、国道の迂回路として使える町道がつくられたのを契機に、路線を切り替えることなく国道のまま坂道を解消し階段化してしまったのである。かつては坂道の途中に小学校があり、登下校道路としては階段にする方が安全だということだったようなのである。

しかし、経緯は別として、国道の一部が車では利用不可能な階段に変わってしまった。その直後から「階段国道」として関心を呼んだようだが、いまではすっかり観光名所となり、青森県も国道番号の下にわざわざ「階段国道」なる看板を付ける始末だ。そしてオタク青年たちは、ご丁寧にも当地に出かけ車では通れない酷道ぶりを楽しんでいるのである。このほかにも、国道289号の通行不能区間に出かけて「なぜ国道がつながっていないのだろう」と不思議を経験したり、東京湾アクアラインが高速道路でなくなぜ国道なのかと考えてみたり、海のうえに国道があるのはどうしてだと沈思したり、国道25号が高速道路のようなのになぜ無料なのだろうかとか、並行してもう一本同じ名称の国道25号が奈良県で管理されているのはなぜかと考え込んだりしているのである(なお高速道路のようだといわれる国道25号「名阪」は一般国道の自動車専用道路区間である)。

さらに日本で一番短い国道を探検して、これをなぜ国道としなければならないのかと悩んだり、むかし建設された軍事国道を発見したり、とにかく国道に狂った青年たちなのだ。

青年たちと書いたが、オタク少年もいて、一つの道路になぜ異なる号線番号が複数提示されているのかとか、国道番号標識はなぜあのかたちなのか、誰が決めたのだ、値段はいくらするのだ、と尽きない悩みを抱えているのだ。

彼ら青年は、東に西に、北に南にと不思議な国道を巡り、それを「酷道をゆく」というタイトルのDVDにまとめ市販している。冒頭の機会とは、この北日本編、南日本編の録画に参加して道路についての蘊蓄議論を一緒にやったということなのである。

どのような興味からにせよ、地域にでかければ、地域の風土に触れ、歴史を感じ、特産に出会うことになる。この日本国土はごく一部の例外を除いて2千年前のはるか昔から、先人たちが、大地を耕し、山に木を植えて森を育て、水をためて水を引き、道を拓き、川をなだめてきているのである。出かけると必ずこれらの事跡に触れあうことになる。そうすると、程度の差はあるにせよこの国の歴史を考え、この国の自然の多様に思いが至ることになる。歴史を考えると地域や国の行く末を思うことになるし、自然の多様に触れるとわれわれが自然に生かされている存在であることに気づくことになる。

動機も面白く同感できるし、地方に触れる喜びを持ってしまった彼らをこれからも応援していきたいと考えている。東京さえ良くなればいいのだとの考えを持つ人がいたり、地方は東京のお荷物だと公言する輩もいる昨今である。しかし、われわれが生きていける単位は国で閉じているのだし、地方がなければ東京など、食糧も水も電気もたちまちにして供給が止まり、サドンデスするしかないことを理解しなければならないのだ。

2005年に中国は、今後の高速道路建設計画をまとめ公表した。これは「7918網」と名付けられ、中国全土を8万5千kmのネットワークでカバーすることとした計画である。具体的には、北京から延びる七本の放射幹線、南北に走る九本の縦貫幹線、東西には18本の横断幹線を整備することとしたため、この名称をかぶせたのである。明らかにアメリカのインターステイトハイウェイ約10万km、EUの高速幹線道路約8万9千kmに対抗する意志が見えるものだ(現在中国は6万km、日本は8千kmを供用)。

中国の交通部長(大臣)はこの計画発表の記者会見において、アメリカのライス国務長官(当時)の発言を公表した。ライス氏は「交通担当者に伝えてください。やはりもっと道路を、特に高速道路を建設した方がいいと。私は小さいとき、アメリカの高速道路を使い、アメリカ全土を自動車で回ったので、アメリカを把握し、理解し、心から愛するようになった。中国も是非そうなって欲しい」と言ったというのである(この中国の高速道路整備計画は、同じ年のブッシュ大統領のアメリカのハイウェイ整備構想と同様に、日本では日経新聞の小欄以外では報じられたことはない)。

高速道路の料金割引が環境や他の交通機関との競合など喧しい議論を生んでいる。しかし、これが出かけることを考えてもみなかった地方への誘いとなって、日本版ライス長官の二世、三世が育つ機会になれば、施策としては安いものなのではないか。

(早稲田大学公共経営研究科・客員教授) 
 
   
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