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| 【特集】 土木へのまなざし |
| 「国道」という名のエンターテイメント |
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| 松波成行(Matsunami Shigeyuki) |
国道愛好家 |
近著で『国道の謎』(祥伝社)というタイトルの新書を5月に上梓しました。インターネットの普及にも後押しされて、マイノリティであった国道趣味にも5年ほど前からメディアに取り上げられるようになり、国道を趣味と意識した約20年前と比べると、随分と国道がエンターテイメントとして認知されてきた感があります。
国道という趣味は何を楽しんでいるのか。それをタイプ別で分類すれば、おおよそ、以下のような5項目になります。
(1)完走(塗り潰し)系 国道を起点から終点までを正確に辿るもの。全路線(総数459路線)を制覇するコンプリート的な要素が強いものです。昔であれば、走った路線を地図上にペンで塗り潰していましたが、現在では、GPSのログを収集し、デジタル地図上に反映させることが盛んになっています。
(2)旧道系 バイパスの完成によって降格した旧路線や、明治・大正時代の国道指定路線を辿るもの。一世代前の遺構や名残を感じさせる所も多く、宝探しに似た楽しさや「レトロ」に触れられる期待感があります。
(3)酷道系 1.5車線区間(いわゆる酷道)を走るもの。酷いモノ見たさ、探究心、冒険心。様々なモチベーションが人の心を捉えます。道が峻険なほど達成感が強く感懐も深くなります。一方で、酷道を通じて、日本の国土の厳しさを教わり、何時かしら愛おしむようにも。
(4)廃道系 鉄道の廃線から地位を得るようになった「廃」モノ。廃道もそれに準じる楽しみです。過去の有名無名問わず、近代土木の遺産に出遭う機会にも恵まれ、これは引き続く歴史考証系にもつながってゆきます。
(5)歴史考証系 文献、古地図などからの調査、歴史考証。隧道、橋梁の歴史のみならず、行政史などから文献を掘り下げていきます。地形図を眺め、想定される「旧道」を推理する謎解きもあります。
いずれのタイプであっても、好きなシーンでゆっくり走ったり、ガイドブックに載らなくても風趣がある橋梁や隧道に見惚れたり、はたまた落ち着いた街で一服してみたりする「ゆとり」があります。そんな行程のゆとりは、国道巡りの魅力のひとつです。
一方で、国道を走りこんでゆくと、限界集落、中山間地域、過密都市、ダム開発などの日本の現実を直視する景観に出くわします。社会資本、交通政策、国土計画、都市計画、という本義を他府県のことであっても我が身のこととして考えるようにもなってきます。余談ながらも、将来、国政を目指す方は、是非、国道を走り込むべきでしょう。
デジタル機器の「進化」が国道エンターテイメントを「深化」させています。日進月歩で高精細化が進むデジタルビデオカメラは、かつてはプロ仕様であったフルHD規格が「標準」となり、手振れ補正機能や高感度CMOSを備えたことで、素人でもプロ並の撮像が可能となりました。そのようなことから、「車載動画」という新しい表現方法が国道趣味の新たな展開を見せています。
8月23日に社会科見学の第一人者である小島健一さん主宰によるトークイベント(テーマ:「国道の昼」)では、その車載動画の近年のホットトピックが紹介されました。ニコニコ動画だけでも「車載動画」のタグがついた映像は17,000本に達し、総再生数は2,200万回という賑わいを見せています。膨大な数の道路の記録が素人の手によって毎月700~1,000本の割合でアップされ続けていますが、これは増加傾向にあります。
「車載動画」は、いずれはこの時代の道路・建造物を記録した「アーカイブ」として語られる日が来ます。従来のメディアでは到底なしえなかった全国の「今」の日本の記録が、国道というエンターテイメントによって、日々、これからも蓄積されています。
しかし、マニア(素人)の限界はあります。それは、実現場で業務に携わってきているプロ(専門)の方々の「智慧」を知ることです。プロジェクトの背景、設計思想、現場の記録などは、素人は到底知るすべがありません。これは、自分が昭和年代の構造物を探求することにおいて切実に感じているジレンマのひとつです。
昭和40年代から50年代にかけては、官公庁から発刊された10年、20年単位の建設史、道路史の書籍が充実していました。
しかし、時代の流れは、そのような記念誌を発行することすら「無駄」と看做されています。焚書坑儒のような現状に憂いをおぼえます。
社会資本という土木建築物、ひいては土木工学や建築工学が後世において冷静に評価されるためにも、せめて、その時の背景、設計、工程の記録は「アーカイブ」として残して欲しいと切に願っています。
企業やJVであっても、その記録の秘密保持を原則とし、公文書のように一定期間は非公開としつつ、期限後にはオープンにするような保存機構を創設するようなものがあってもよいのではないでしょうか。「アーカイブ」こそ、後の大きな財産になるのですから。
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