沢木 太郎 (Sawaki Taro)ライター



 地方の建設業界は、これからどうなっていくのだろう。最近の動きを見ていると、どうも方向が違うのではないか、と不安になってくる。

 七月上旬に都内で、関東三県の建設業協会の集まりがあった。その会議は、例年、秋に開催される地方ブロック会議(関東の場合は関東甲信越ブロック会議で十月二十二日に開かれる)に提案する議題を決めるものであったが、業界専門紙を読むと、入札契約制度や官公需法などについて、ある意味で率直な、ある意味で言いたい放題の発言が続出したようだ。特に官公需法について大手団体が「不合理な分割発注や逆に発注ロットを拡大できない非効率な発注が行われている元凶とみなしている」と、大手業界を槍玉にあげ、批判をし始めている。これらの議案書を読むにつれ、地方建設業界が苦境に立たされていることが伝わり、その気持ちも分からぬではないが、果たしてコップの中の嵐を起こすだけで打開の道はあるのか、そんなことをしている場合ではない、と思う。

 政府の経済財政諮問会議がまとめる来年度予算の全体像では、来年度からの三年間で地方向け補助金を四兆円程度削減するが、「公共投資は地方向け補助事業分を一割以上減らし、国の直轄事業と合わせて七%以上を削減する」(七月十六日付日本経済新聞)という動きが進んでいる。地方財政の三位一体改革の一端だが、官公需法をいくら堅持しても、公共事業のパイは地方から減少していくわけで、需給ギャップが公共事業依存度の高い地方業界でより急激に進むことは避けられない。

 需給ギャップが生じれば、価格競争を通じてギャップの調整が進むのであり、需要の減少に見合った供給力の淘汰がある程度避けられない。これまで何度も指摘しているように公共事業市場の場合は、入札で総価契約により安価の勝負をさせるシステムになっているので、建設業の場合は、需給ギャップの調整が市場価格を逸脱して、より過酷でより壊滅的に進む可能性があり、現にそうした事態が進行している。

 今年度の官公需法による政府の中小向け契約目標は七月十一日の閣議で四五・三%となったが、この三年間は〇・一%ずつ拡大しているが、この率の設定も機械的であり、官公需法の限界を暗示している。つまり政治的に下げることがままならないし、かと言って経済合理性や規制緩和の時代性からみて率を上げることには社会的抵抗がある。

 結局、そのせめぎ合い、あるいは妥協の産物として毎年〇・一%の拡大になっているのである。政治力の産物である官公需法は、「触らぬ神に祟りなし」となっている。できるなら、だれしも言及したくはないのだが、もはや時代に逆行しながら機械的に自己増殖せざるを得ない制度の弊害はあまりにも大きい。というのは、国と政府関係機関(公団・事業団)の発注を規制する官公需法は、中小業界にとってはその率自体よりも、シェア拡大しているという名目が大事なのである。中小にとって国からの受注工事は地場大手に限られており、関心は地方自治体の工事である。「国でさえ拡大しているのに、地方自治体はもっと地元中小に配分すべきだ」という主張をするための「錦の御旗」となっているのだと思う。

 その御旗効果のせいか地方自治体では、原則地元への発注を掲げるところが少なくないし、地元優先の施策は強まる一方だ。だから、たとえ〇・一%であっても拡大し続けることに官公需法の存在意義があるのだ。だが、このような硬直して自己増殖する法制度は、極めて危険なものに転化しやすい。大手団体が、あえて祟りを覚悟で神に触ろうというのも、その危険性を察知しているからではなかろうか。

 しかし仮に官公需法の目標率が自己増殖しても、肝心の公共工事が大幅に減少するならば、地元中小のダンピングや危機はおさまらない。仕事の配分を待つだけでは、危機は打開できないことに早く気付くべきではないか。危機を打開するには、淘汰の波を潜り抜ける競争力(あるいは競争をしない知恵・技術)が求められているのに、その競争力を蓄え磨くのではなく、配分の憲法とも言うべき官公需法を堅持することに血眼になっているのである。

 もちろん、中小業界も新たな活路、あらたな分野へのベンチャーに生き残りの道を模索している企業は少なくない。さまざまな事例が建設業振興基金により『建設企業の新分野進出事例集』としてまとめられているが、その事例集で、デイサービスなどの介護ビジネスに参入した滋賀県守山市の北川建設の例が紹介されている。北川恭司社長は「今まで通り公共建設事業に依存していては、会社の将来が危ない」という危機感を持っていて、社内に多角化の事業部制を導入し、地域住民向けの訪問介護からデイサービスへと事業を進め、月間売上一千万円、営業利益百万円をあげるまでもっていき、「平成十五年度から公共工事から一切手を引く決心がついた」と記している。介護事業は高齢化社会に欠かせないものだが、さまざまな規制があり、参入は簡単ではない。その困難を乗り越え、決断し実行した力はどんな場面、状況でも強さを発揮するであろう。官公需法や地元優先の配分を期待する姿勢とは大きな開きがある。

 地方業界からの大手批判は、さらに広まり激しさを増す予感がするが、そのコップの中の嵐は不毛な論争にすぎない。大手業界は統合再編を進め、百万人の市民現場見学会や科学技術館での「建設館」オープンなど社会的理解の促進にも着手しているし、革新的な技術開発も進めている。地方業界は、大手と中小の距離が異次元な産業となるほど遠くまで開きつつあることに気付いてもよさそうだ。



 


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