
最近、建設業界で働く女性の話題が雑誌やマスコミに取り上げられることが少なくなった。女性技術者、技能者がもはや記事にするほど珍しい存在ではなくなっているのなら嬉しいことである。少し前までは、存在するだけで珍獣のような扱いだったが、最近では技術者として活躍する姿を見聞きすることが多くなり、堅実に足場を固めてきているようだ。
ときどき、女性土木技術者は全部で何人ぐらいいるのですかとの質問を受けることがある。そんな時いつも一瞬言葉につまり、咄嗟に返事ができない。「土木技術者女性の会」の活動に参加し、女性技術者のあれこれを見聞きする機会が多いにもかかわらず、情けないかぎりだが、本当にわからないのである。私も、実際、何人くらいいるのだろうかと興味があり、何とか数字を出してみたいと試みたことがあるが、はっきりした数は把握できていない。その大きな理由として、国勢調査や労働力調査などにおける統計上の数字は、土木と建築は同じ業種「建設業」として一括りにされており、土木技術者だけ抜き出してカウントできないことである。また、学校基本調査による統計も、土木建築工学という括りになっており、ここでも両者を区別するのは難しい。当たり前のことだが世間では土木も建築も同じ建設業で、実際、同じ会社で建築工事も土木工事も手がけていることが多い。
しかし、外目には同じように見える建設業ではあるが、それに携わっている人間の認識には結構違いがあるように思える。「建築家」「土木屋」という呼び方にその差が象徴されている。少し前まで、犯罪を報道する記事の中で「容疑者は土木作業員」という言い方がよくされていたが、建築作業員の可能性だってありうるのだから「建設作業員という表現に変えてほしい」と申し入れたことがあった。このエピソードからもうかがえるように、両者の意識の差異は明確であり、それぞれに譲れない矜持を抱いているようである。
女性に関してもことさら意識したことはなかったが、女性建築技術者と女性土木技術者が同じだとは誰も思っていないだろう。女性建築技術者に比べ後発の女性土木技術者のおかれている状況は、一見似ているが同列に語れないことが多い。何とか女性土木技術者の数を把握したいと考えるがなかなか難しい。
建設業の就業者は平成十年で六百六十二万人、うち女性は百七万人で約十六%を占めており、この比率は平成に入ってから一定である。ちなみに全産業の女性の就労率の平均は四十一%である。このうち専門的技術的職業従事者、いわゆる女性技術者は全産業で二千六百六十五万人中三百六十四万人で十四%を占めているが(平成九年)、建設業では二万人と低く全女性技術者の〇・六%にも満たない。また、建設業全体の女性技能者・建設作業員二十二万人を含めても三・六%ときわめて低く、あちこちの建設現場で女性技術者、技能者の話題が聞かれるわりには増えていないというのが実感である(総務庁統計局労働力調査)。
土木と建築の比率は明確ではないが、両者合わせて女性技術者が二万人というのは、想像したよりずっと低い数字であり、働く場における男女比率の偏りをなくそうとする男女共同参画社会に向けて、建設業は大きな課題を負っていると言わざるを得ない。
一方で建設系の大学に女子学生が在籍するのも、いまや、当たり前の風景となっている。土木建設工学系の大学、短大、高専に入学する女子学生の数は一時の急上昇は治まったものの、横ばい状態を保ちながら毎年三千五百名以上の入学者があり、卒業後に就職した女子学生は平成十年度で二千八十五名である。七、八割が建設業界に就職すると考えると、約千五百名の女性が年々増えていくことになる。
しかし現在、不況時代も影響して女子学生たちの就職活動の険しさは建設業界も例外ではない。バブル期に女性を採用することが企業のイメージアップに繋がった時代はともかく、女性を活用しようという気運が年々小さくなってきており、女性技術者、技能者を育成しようとする気配は窺えない。
「土木技術者女性の会」では、土木技術者を目指す女性の支援を会則に掲げ、これまでOGとして女子学生の就職活動の相談にのってきた。長年、男性中心の社会であった建設業界で女性が受け入れられるだろうか、働きつづけられるであろうかとの不安を抱く女子学生は多い。また、先輩女性技術者数が少なく将来像を掴みにくい、仕事も多分野にわたっており業界の実情が見えにくいなど、就職時に不安や疑問がつきまとう。特に、自分のやりたい仕事をするためには、コンサルタントと建設会社のどちらがいいのか、ゼネコン、サブコンの仕事の違いは、現場には出られるのか、家庭生活と両立できるか等々と質問が尽きない。就職前の情報が少なかったため、入社後、想像していた仕事内容とのギャップに戸惑うこともある。そこで、会としてこれまで個々に女子学生に対応してきた経験をもとに、土木技術者を目指す女性たちのために就職支援のパンフレット『Civil Engineer への扉』を作成した。本パンフレットは官公庁、公営企業、建設会社、コンサルタント、学校などに働く女性土木技術者たちが、自らの経験をもとに職業選択の参考となるよう、分野別の仕事の紹介を行っている。また、女性に共通な関心事である家庭生活との両立、キャリアメイクと将来像、仕事に対する心構えなどが実体験にもとづき語られている。本来は就職活動中の女子学生を意識して編集されたものであるが、土木の世界で働く女性たちのありのままの姿や悩みなどが描かれており、マドンナ時代はとうに終わりを告げ、着実にマイペースで土木業界に根を張って活躍している様子がよくわかる。
これを読んだ就職活動中の女子学生から、「将来、何かある度に読み返すことになると思います」というお便りをいただいた。就職ガイドブックにとどまらず、頑張っている女性技術者たちへのエールになれば、こんなに嬉しいことはない。
(Copyright (c) 1999 社団法人日本土木工業協会)
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